就職活動において「有名な企業でないと価値がない」というブランド志向は今や昔。withコロナの時代を迎えて価値観が大きく変わる中、学生が企業を選ぶ基準も変わってきています。優秀な人材の心を動かすには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
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コロナ禍における感染症対策としてテレワークが急速に普及し、働き方が大きく変わっています。以前よりも家族との時間を持つことができ、ワークライフバランスについて改めて考えた方も多いことでしょう。さらに働き方の変化、職業観の変化だけでなく、学生が就職先を選ぶ基準にも影響を与えています。
日本経済新聞が女子大学生1~4年生計1,000人に調査したところによると、民間企業で重視する点について「在宅勤務ができる」と回答した人はコロナ禍前より17.5ポイント増え、全回答項目の中で最も大きな変化率となりました(※1)。
学生の希望する労働条件だけでなく、企業の採用方法についてもコロナ禍による変化が見られます。以前は、就職ナビや合同企業説明会を開催し、自社の説明会につなげる「母集団採用方式」を取る企業も多かったのですが、コロナ禍により開催できなくなりました。そのため代替策として、オンライン説明会で母集団を作る企業が増えています。
採用する企業側としては、コロナ禍でやむを得ずオンラインで説明会を開催したケースが多かったと言えますが、意外な効果も出ています。レバレジーズ株式会社の調査によると、「動画視聴後の志望度の変化」を聞いたところ、8割以上の学生が採用動画の視聴後に志望度をアップしたという結果となりました(※2)。会社の雰囲気や社員のふるまいを映像で学生に確認してもらうことで、企業の魅力が伝わりやすくなったと言えます。
またエン・ジャパン株式会社の調査によると、オンライン就活をすることにメリットを感じると回答した学生が7割にものぼりました(※3)。「交通費がかからない」「移動時間が節約できるので時間を有効に使える」といった経済的、時間的な負担の軽減に加え、「気軽に参加できて質問もしやすい」「リラックスして面接やグループディスカッションに臨める」といった精神面でのメリットを感じています。
企業側としても、オンライン採用は海外や地方にいる人材を確保しやすいというメリットがあります。実際に優秀な人材を確保することを目的にコロナ禍以前からオンライン採用を行っている企業は少なくありません。コロナ禍の終息する兆しが見えない中で、オンライン採用は今後も活用されていくでしょう。
オンライン採用に切り替える際は、押さえておきたいポイントが2つあります。
ひとつは、非対面であるためにコミュニケーションが阻害されるという点です。エン・ジャパン株式会社の調査によると、オンライン就活をする学生からは「人の雰囲気の掴みにくさなどがある」「聞きにくい部分やパワーポイントの画質が悪く図が見えないことがある」といった声が寄せられました(※3)。学生に会社の雰囲気を感じてもらえるような情報発信や、面接時のコミュニケーションの見直しが必要となります。
もうひとつが運用するIT基盤の問題です。オンライン面接は通信のトラブルが発生しやすく、途中まで問題なく進行できていたのに、急に音量が小さくなったり、映像が途切れたりすることもあります。社内の通信環境を整備しておくとともに、代替案をあらかじめ想定しておくことが求められます。
また、Web面接の環境は安価に整備できますが、脆弱性があると個人情報が流出しかねません。ツール選定の際にはエンドツーエンドで暗号化されているか、面接ごとにパスワードを発行できるかといった確認が必要となります。
採用のオンライン化の代表的な事例としてはパナソニック社の取り組みが挙げられます。毎年国内外の大学生・大学院生等、数千人の応募がある同社が、採用を最終面接までフルオンラインで実施したというニュースは大きな話題になりました(※4)。
もともと海外や地方に住む学生の地理的な課題を解決するためにオンライン採用の準備を進めていたものの、完全オンライン化は採用担当者も予想していませんでした。すでに2019年12月にシステムを選定していたものの、予定していたテストを実施しないままに全面的な運用を開始したのです。
面接官によっては1日10件の面談をこなすため、ひとつの面接が遅延すると、全体が遅延する可能性があります。そのために面談中のトラブルについて速やかに解決する必要がありましたが、学生側の環境に要因がある場合は企業側からは対処が困難です。そこで、トラブルの際は電話に切り替える、別日程に変更する等の対策をあらかじめ用意していました。
また、非対面によるコミュニケーションの阻害対策としては、採用サイトでさまざまな分野の社員インタビュー・対談コンテンツを配信し、社員との1対1オンライン懇親会を設けるなどして、社風を感じてもらいやすい工夫をしました。
この事例からもわかるように、システム面での課題と運用面での課題についてあらかじめ想定しておき、対策を立てておく必要があります。
withコロナ時代において優秀な人材を獲得するには、オンライン面談などで採用する人材のエリアを広げ、そして多様な働き方を認めることが不可欠です。そのためテレワークの導入は、採用活動の大きなカギを握るでしょう。事実、就職情報サイトを運営する学情社の調査によると、2022年に卒業予定の大学生・大学院生のうち約8割が「入社先でテレワークを利用したい」と回答しています(※5)。学生が企業を選ぶ基準にテレワークという項目が加わっている以上、採用企業側は多様な働き方を認めざるをえないでしょう。